デザインの手法は、探究活動にも活かせます。
この記事では、「カスタマージャーニーマップ」という手法を、探究学習で使いやすい形に置き換えて紹介します。
カスタマージャーニーマップとは?
カスタマージャーニーマップ
ある人が何かを体験するときの流れを、時間の順番に沿って整理する方法
ユーザージャーニーマップとも呼ばれます。
「ジャーニー」は、旅や道のりという意味ですね。
たとえば、ある人が図書室を利用するまでの流れを考えるとします。
- 昼休みになる
- 図書室に行こうか迷う
- 入口まで行ってみる
- 中に入ってみる
- 本を探す
- 席に座る
- 読書や自習をする
- 図書室を出る
このように、ひとつの体験にはいくつもの場面があります。
カスタマージャーニーマップでは、その場面ごとに、相手が何をしているのか、何を考えているのか、どこでこまっているのかを整理します。
探究学習においても、「相手の体験の流れを地図にする方法」として考えると使いやすくなります。
本来のカスタマージャーニーマップとの違い
カスタマージャーニーマップは、商品やサービスを利用する人の体験を整理するために使います。
たとえば、アプリを使う人、店で買い物をする人、施設を利用する人などが、どの場面で迷い、どの場面で満足し、どこで不便を感じるのかを可視化します。
特にデザインの分野では、ユーザ行動、気持ち、考え、困りごとを整理し、サービスや仕組みの改善や向上のために使われます。
教育現場でも、学校生活、地域の活動、公共施設の利用、イベントの参加など、身近な体験の流れをするために利用できます。
「カスタマー」という言葉が入っていますが、探究学習では「お客さん」だけに限らず、利用する人、参加する人、関わる人、そして自分自身など、広く対象にして考えると良いです。
探究学習ではどこで使える?
カスタマージャーニーマップは、特に「整理・分析」で使いやすい手法です。
インタビューやアンケート、観察などを経て集めた情報を、時間の流れに沿って整理するときに役立ちます。
また、「課題の設定」や「まとめ・表現」でも使えます。
体験の流れを見直すことで、どこに困りごとがあるのかを見つけたり、発表の中で提案の理由を分かりやすく示したりできます。
| 探究のステップ | 相性 | 使い方の例 |
|---|---|---|
| 課題の設定 | どこに困りごとや違和感があるのかを見つける。 | |
| 情報の収集 | 相手がどのように行動し、何を感じているのか集める。 | |
| 整理・分析 | 集めた情報を時系列に整理して分析する。 | |
| まとめ・表現 | 流れを図で示して分かりやすく伝える。 |
カスタマージャーニーマップを使うと何がよいのか
カスタマージャーニーマップを使うと、相手の立場から課題を考えやすくなります。
探究学習を進める際、つい自分たちの目線で考えてしまいがち。
「こうすれば便利なはず」
「この案なら使ってくれるはず」
「この活動なら参加してくれるはず」
このように考えること自体は大切です。
しかし、実際にユーザ(相手)がどのような流れで行動し、どこで迷い、どこで面倒に感じるのかを見ないまま考えると、提案がズレてしまいがちです。
そこでカスタマージャーニーマップを作成すると、体験をひとつの流れとして見ることができ、次のようなことに気づくことができます。
- どの場面で困っているのか
- どの場面で気持ちが下がっているのか
- どの場面で迷いや不安が生まれているのか
- どの場面に改善のチャンスがあるのか
- どの場面はすでにうまくいっているのか
課題を「点」ではなく「流れ」で見ることができる点が、この手法の特徴です。
カスタマージャーニーマップの進め方

カスタマージャーニーマップは、次の6つの流れで行います。
まず、誰の体験を整理するのか決めます。
たとえば、
- 初めて図書室を利用する1年生
- 学校帰りに商店街の前を通る高校生
- 地域イベントに初めて参加する人
- 昼休みに購買を利用する生徒
大切なことは、「みんな」と対象を広くしすぎないことです。
対象が広すぎると、体験の流れがぼやけてしまいます。
ペルソナを設定している場合は、そのペルソナをもとに考えるとより具体的に整理できます。
次に、どこからどこまでの流れを整理するのかを決めます。
たとえば、図書室の利用を考える場合でも、いくつかの区切り方があります。
| 始まり | 終わり |
|---|---|
| 図書室に行こうと思うところ | 図書室を出るところ |
| 教室で友人と話しているところ | 本を借りるところ |
| 図書室に入るところ | 自習を終えるところ |
範囲を広げすぎると整理が難しくなるので、最初は短い流れに絞って取り組みましょう。
次に、体験の場面を時間の順番に並べます。
たとえば、図書室の場合は冒頭で述べた次のようになります。
- 昼休みになる
- 図書室に行くか迷う
- 入口まで行く
- 中に入る
- 本を探す
- 席に座る
- 読書や自習をする
- 図書室を出る
この段階では、まだきれいな図にする必要はないのです。
流れを見える形にすることを優先しましょう。
付箋などに1枚1場面ずつ書き、あとから並べ替えや追加がしやすい状態にしましょう。
場面を並べたら、それぞれの場面について行動や気持ちを書き込みます。
| 場面 | 行動 | 気持ち | 困りごと |
|---|---|---|---|
| 図書室に行くか迷う | 友人と話しながら考える | 少し興味はある | ひとりで行くのは不安 |
| 入口まで行く | 廊下から中を見る | 入って良いか迷う | 中の様子が分かりにくい |
| 本を探す | 棚を見る | どこに何があるか分からない | 本の探し方が分からない |
| 席に座る | 空席を探す | 静かな場所かどうか不安 | どこに座って良いか分からない |
気持ちや困りごとは想像だけで書くのではなく、インタビューやアンケート、観察から得た情報をもとに書きましょう。
これらを先ほどの付箋に色を分けて追加すると見やすいです。
(たとえば、「場面」は水色、「行動」なら緑色、「気持ち」は黄色、「困りごと」はピンク色など。)
付箋を整理してマップができたら全体を見直します。
特に注目すべきは、ユーザー(相手)の気持ちが下がる場面です。
- 入りにくい
- 分かりにくい
- 面倒くさい
- 恥ずかしい
- 時間がかかる
- 誰に聞けば良いか分からない
など、些細なストレスを抽出して、改善のヒントにしましょう。
逆に、うまくいっている場面にも注目して、よりよい場面を広げること、なぜうまくいっているのかを深掘りすることも、課題解決の大切な考え方です。
最後に、見えてきた気づきを問いや提案につなげます。
たとえば、次のように考えます。
- 入り口で入りにくさを感じている
- 初めての人でも入りやすい入口の工夫が必要かもしれない
- 本を探すところで迷っている
- 短時間でも本を選びやすくなる表示があると良いかもしれない
- 席の使い方がわからない
- 自習・読書・話し合いなどの目的別表示や配置の工夫をすると良いかもしれない
体験ごとに、どこを改善すればよいかを考え、課題や提案につなげましょう。
探究学習での具体例
ここでは、「昼休みの図書室をもっと使いやすくするには」というテーマで考えてみます。
ある班は、昼休みにふと図書室の前を通った際、図書室の利用者数について疑問を持ちました。
最初の問いは次のようなものでした。
「なぜ昼休みに図書室を使う生徒が少ないのだろうか。」
この問いをもとに、生徒たちは図書室の様子を観察しました。
さらに、図書室をよく使う生徒、あまり使わない生徒、図書委員、先生に話を聞きました。
その結果、次のようなことが見えてきました。
- 図書室に興味がないわけではない
- 昼休みは時間が短く、あまり行こうとは思わない
- 入口から中の様子が見えないので、入りにくい
- ひとりで入るのが少し不安
- 読書目的ではなく、休んだり自習したりする目的で使ってもいいか分からない
そこで、図書室をあまり使わない生徒の体験を、カスタマージャーニーマップで整理してみました。
- 昼休みになる
- 友人と教室で話しながら昼食をとる
- 少し静かな場所で休憩したいと思う
- 図書室に行こうか迷う
- 入口まで行ってみる
- 中の様子が分からないので、入りにくいと感じる
- 入ってみたが、座っても良い席がよくわからない
- 結局、教室に戻る
このように整理すると、問題は「図書室に興味がないこと」だけではないことが分かります。
むしろ、図書室に行くまでの流れの中に、小さな迷いや不安がいくつもあることが見えてきました。
そこで、最初の問いから次のように具体化しました。
「なぜ昼休みに図書室を使う生徒が少ないのだろうか。」
→ 図書室に興味はあるが、入りにくさや使い方の分かりにくさを感じている生徒がいる。
→「昼休みの短い時間でも、初めて利用する生徒が安心して図書室に入り、気軽に過ごせるようにするにはどうしたらよいか。」
このように、カスタマージャーニーマップによって、ぼんやりした課題を具体的な改善ポイントに変えることができます。
使うときのポイント・注意点
カスタマージャーニーマップでは、次のことに注意しましょう。
| ポイント・注意点 | 内容 |
|---|---|
| 想像だけで作らない | 調査で分かったことをもとにする |
| 相手を決めつけない | 行動の背景にある“気持ち”を考える |
| 場面を細かくし過ぎない | 最初は5〜8場面くらいに絞る |
| 行動と気持ちを分ける | 何をしたか、どう感じたかを分ける |
| よい点にも注目する | 困りごとだけでなく、うまくいっている点も見る |
| 作って終わりにしない | 気づきを問いや改善案につなげる |
まだ情報が少ない場合、最初から完璧なマップを作ろうとしなくても大丈夫です。
まずは「仮のマップ」として作り、あとからインタビューや観察をして確かめながら修正していきましょう。
先生向け:授業で使うときの支援ポイント

カスタマージャーニーマップを授業で使うときは、生徒が「相手の体験を流れで見る」ことが大切です。
ただ困りごとをひとつだけ見つけるのではなく、その前後にどのような行動や気持ちがあるのかを考えられるように支援します。
授業では次のような問いかけをしてみましょう。
- その人は最初に何をしようとしていましたか?
- その前には、どのような場面がありましたか?
- その後、その人はどう行動しましたか?
- どの場面で迷ったり困ったりしていますか?
- その気持ちは、どの情報から分かりますか?
- 観察したことと、想像したことは分けられていますか?
- 流れの中で、改善できそうな場面はどこですか?
生徒が自分の思いつきだけでなく、すでに得ている情報に基づいて考えを持てるようにしましょう。
授業で初めて扱う場合は、いきなり大きなテーマに使うよりも、身近な体験から始めてみましょう。
たとえば、次のような流れです。
- 対象にする人や場面を決める
- 体験の始まりと終わりを決める
- 場面を時間の順番に並べる
- 各場面の行動・気持ち・困りごとを書く
- 困りごとが大きい場面に印をつける
- 改善できそうな場面を選ぶ
- 問いや提案につなげる
国語で物語を読み解く際、社会で歴史について学ぶ際、カスタマージャーニーマップを個人やグループで作成して議論する場を設けることで、より一層学びを深めることができます。
物語や歴史上で“実際に起きたこと”の一連の流れから場面ごとに切り分け、“もし〜だったら”こうなったのではないか、のタラレバを根拠のある問いや提案にする活動もおもしろそうですね。
最初は「場面」、「行動」、「気持ち」、「困りごと」の4項目で十分です。
情報をもとに相手の体験の流れを組み立てられる力を意識しましょう。
慣れてきたら、「気づき」、「改善案」、「必要な情報」などを追加しましょう。
相性のよい手法
カスタマージャーニーマップは、他の手法と組み合わせるとより深い学習ができます。
まとめ
カスタマージャニーマップは、相手の体験の流れを地図のようにして整理する方法です。
ユーザージャーニーマップとも呼ばれています。
探究学習では、学校生活や地域の活動、施設の利用、イベント参加など、身近な体験を整理するために使えます。
- どの場面で迷っているのか。
- どこで迷っているのか。
- どこに改善のチャンスがあるのか。
大切なのは、想像だけで作らないことです。
インタビューや観察、アンケートなどで集めた情報をもとにして、相手の行動や気持ちをていねいに整理しましょう。
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